今月は岩波新書5冊、ジュニア新書2冊をご紹介します。
特に「アメリカ史」と「独ソ戦」を熱く語りますよ~
2019年7月の岩波新書 5冊
PICK UP!
『南北戦争の時代-アメリカ合衆国史②』貴堂嘉之
~引き裂かれたアメリカの苦悩と再生 ~
本書は、全4巻からなるシリーズ『アメリカ合衆国史』の第2巻目にあたります。
主に1812年以後の19世紀史、南北戦争の前後が中心の時代です。
南北戦争時代の文学書といえば、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』やルイーザ・オルコット『若草物語』、また奴隷制度に注目するならストウ夫人『アンクルトムの小屋』、マーク・トゥウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』などが個人的には真っ先に思い出されます。
今回は娘の高校の世界史の教科書を片手に読んだのですが(すっかり忘れているので汗)、なんと教科書では半ページにも満たない情報量です。
そもそも1783年のパリ条約でイギリスからの独立を果たしたアメリカ合衆国ですが、最初の第一歩はルイジアナをはじめ領土を「購入」することで拡大したのでした。
購入!…さすがアメリカ資本主義。なんかとても現実的。非常にトランプ的。
北アメリカ大陸を取れる分だけ取って合衆国の形が出来上がると、次なる課題が現れます。
綿花などの商品をめぐる世界市場の動きがアメリカの南部と北部を分断し、やがて奴隷制度を切り口にして、もっと大きな人権の意識改革に繋がっていくのです。
もう私の中ではスカーレットがエネルギッシュに生きる姿しか思い浮かびません。
詳しくはこちら↓時間のない人はDVD。
でも小説が一番面白いですけどね♪
これは、国を二分した内戦である南北戦争の激しさの実態、戦後の再建と国民政治の創造という、19世紀アメリカ国家の変貌の光と影を見つめる物語です。
当時の写真やイラスト、また刻々と変わりゆく戦線を示す地図などもあり、私のような再履修の大人も、初読の学生も読みやすいと感じました。
前巻『植民地から健国へ-シリーズ①』和田光弘も合わせてお勧めです。
ちなみに『風と共に去りぬ』には、続編『スカーレット』があります。
ここまで読めば、19世紀アメリカ・イギリス・アイルランドの歴史はバッチリです!
もちろん、読むのが止められないくらい面白いですよ~☆
PICK UP!
『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』大木毅
~戦場ではない 地獄だ~
正直「独ソ戦?」という感じでした。
すみません、受験では日本史専攻だったので(言い訳です)。
読んでびっくり、知ってあんぐり、教えてどっきりです。
独ソ戦、ヒドい。エグい。エゲツない。
この第二次世界大戦のドイツとソビエト連邦の闘いは、壮絶の極み!
二度目の世界大戦は、国家という大義名分を被ったエゴのぶつかり合いでした。
その中でも独ソ戦は他とは少し違う、血で血を洗うような皆殺しの闘争です。
第二次世界大戦は日本人にとって原爆投下の記憶が強いので自国を中心に考えてしまいがちですが、このドイツ対ソ連の闘いは化学兵器と残虐なイデオロギー(思想)の相乗効果でこの世の地獄と化したようなのでした。
西欧の視点から「東部戦線」と呼ばれることも多いこの戦いは、3000万人の犠牲者を出したと言われる史上最悪の戦争になりました。
国の人口自体が違うためそのまま比較する事は出来ませんが、日本の原爆死亡者が48万5千人ということを考えれば、どれだけ規模が大きかったかわかります。
日本ではもともと和訳されている独ソ戦の書物や資料が少ない上に、欧米各国を見ても偏った思想の回顧録等が中心であった為、最近まで実態が釈然としない戦争でした。
しかし、1989年の東欧社会主義圏の解体、1991年のソ連解体によって史料発見や事実の発見が進み、ようやく世界的にも研究が広がりを見せてきたのです。
軍事作戦の進行を追って見えてくるものは、戦地の悲惨さと残虐な行為ばかりです。
軍隊トップのエゴに満ちた指令によって、ドイツとソ連のどちらの兵士達も極寒の自然の中で飢えに苦しみ、退避も許されず、また捕虜になればほぼ死す極限の中では、お互いに徹底抗戦するより他ない過酷な戦争でした。
そして暮らしの場が戦地となった市民もまた、食料の略奪で餓死したり、捕虜となって犠牲になったり、独り歩きしたイデオロギーの末のナチスがユダヤ人にした蛮行は今さら語るまでもないですね。
19世紀までの戦争であれば、戦争目的を達成したのちに講和で終結に至ります。
しかし独ソ戦はイデオロギー(思想)とナショナリズム(民族国家主義)という複雑な戦争観が重なった“絶滅戦争”だったのです。
今も世界のどこかで戦争が起きています。
私たちはまだまだ学び足りないのでしょうか。
過去の過ちを正しく理解し、二度と同じ轍(てつ)は踏まないようにするのが学習の鉄則です。
戦争がいかに愚かな行為であるか、一緒にこの本から読み解きませんか。
PICK UP!
『虐待死-なぜ起きるのか、どう防ぐか』川﨑二三彦
~「悪者探し」では、奪われる命を救えない~
2000年に「児童虐待防止法」が施行され、行政の虐待対応が本格化したとされています。
それにも関わらず、それ以後も虐待で子どもの命が奪われるニュースは無くなりません。
虐待死は一番最後に行きつく場所でありながら、そこまで行き着かないと注目されない「社会の陰」にあたります。
行政はもちろん、世の人々の多くは虐待を防ぎ無くしたいと政策を練り、支援の輪も広がっています。それでも虐待が無くならないのは、そんな援助の手の盲点を突いて虐待してしまう家族や同居者が抱える困難や社会の矛盾がまだまだ残るからなのですね。
この本は虐待死を分析し検討する事によって虐待の根本を照らし、支援のあり方をもう一度考えようということが主旨となっています。
著者の川﨑二三彦氏は、児童福祉士として32年勤務した方なので現場を身をもって知っています。
その経験から、虐待死を
①身体的虐待の行き着く先「暴行死」
②養育放棄、放置の末「ネグレクト死」
③生れた瞬間の悲劇「嬰児殺」
④無防備の子どもが犠牲になる「親子心中」
の4つのカテゴリーに分け、なぜ起きるのか原因を探り出しています。
現在も法の改正、行政の認識改革と日々進んでいます。
しかし本書を読んで、根本は「虐待する大人達への支援」なのではないかと思い至りました。
虐待=怒り、苛立ちだとしたら、その矛先が子どもへ向かう根本の理由は何であるのか…貧困なのか、認知力の弱さなのか。何をすることが一番よいのか。
今この瞬間にも、早急に助けを待っている子ども達がいるのですから、悠長なことを言っていられるほど時間が無いのも事実です。
でも、根本を解決しなければ結局何も変わりません。
私達は何が出来るのか、何をしなくてはならないのか。
自分自身へ問いかけるきっかけとなる一冊でした。
是非読んでみて下さい。わたしも、もっと考えたいと思います。
『リハビリ 生きる力を引き出す』長谷川幹
~自分の秘められた力に 自分自身が気づくために~
脳卒中、骨折など、突然の事故や病気けがで、マヒや筋力低下などで出会うのがリハビリです。
正式名称リハビリテーションとは、「何らかの疾患、外傷などに起因する障害のある人が、身体・知能能力の改善を図りながら、心理的に立ち直って主体的に活動して社会参加を果たすこと。さらに支援の『受け手』でありながら『支え手』を担うこと」です。
発症当初の肉体的にも精神的にも厳しい状況の中で、医療・福祉関係者の支援を受けながら、少しずつ自信を取り戻し、この本の書名にもなっている「生きる力を引き出」していきます。
脳損傷、脳外傷、骨関節疾患、神経難症、高次脳機能障害…と分野ごとに事例を挙げながら、具体的な方法や本人の想いも載せています。
私達はいづれほとんどの人が、将来何らかの形で障害を持つことが多いでしょう。
当事者という想いで読んでみてはいかがでしょうか。
『モンテーニュ 人生を旅するための7章』宮下志朗
~「エッセイ」の生みの親が綴った、思索と経験の書
「われわれはやはり、自分のお尻の上に座るしかない」~
いわゆる「エッセイ」の生みの親モンテーニュの話なのですが。
モンテーニュは16世紀のフランスの哲学者ですが、随想録『エセー』は世界文学の古典であり人生の書として知られています。
しかしながら、これを完読した人はそれほど多くは無い筈です。
とにかく、えげつなく長い。
和訳本で全7巻、2400ページ107章にわたる文章は、いかに読書好きと言えども簡単に手が出る本ではありません。
しかも物語ではないので、ドラマチックな展開も起伏もなく、寝食忘れて…という勢いがあるわけでもなく。
しかし!
モンテーニュの生きた、16世紀フランスはまさに激動の時代でありました。
新大陸が発見されて宗教改革が起こってルネッサーンス!みたいな、常識という常識がひっくり返っちゃうそんな時代に、本を愛し、旅を愛した彼が、ふつうの言葉で生涯綴り続けた書物が『エセー』の始まりです。
この『エセー』、日記あり家事記録ありの日常の感動から深い思索までの107章を、7つのテーマに分けてコンパクトに伝えてくれたのが本書です。ありがたい。
一度は読みたいと思っていた人なら、扉をあける気持ちで手にとってはいかがでしょうか。
噛みしめて何度も読みたくなる名文がたくさんですよ。
例えば「われわれはやはり、自分のお尻の上に座るしかない」とかね。
読みたくなるでしょ(笑)。
2019年7月の岩波ジュニア新書 2冊
『男子が10代のうちに考えておきたいこと』田中俊之
~ぼくはどんな大人になっていこう~
なぜ「男子」「10代」限定なのか、つい気になって手に取りたくなります。
タイトルが秀逸ですね~!
意図するところは、君の思っている”男性の生き方”は、これからの時代に合ってる?という認識の確認かなと思います。
旧態依然とした、性別によって求められる役割や進路選択、期待のされ方が違うなどの考え方で、見えない圧力に窮屈な思いをした大人にならないように「新・男性学」からのエールです。
男の子なんだからや、長男なんだしとか、男のクセになどなど。未だにあるんじゃないでしょうか。男の子もつらいよねってこれもジェンダーか、いかんいかん。
「進学校」「難関大学」「一流企業」から「性的役割分業」「社会進出」「恋愛における加点減点」など、女性から見て今や当然のキーワードもズラリ。
これを知らずに社会に出てはなりません。息子に渡したい男子の必読書です。
『カガク力(りょく)を強くする!』元村有希子
~科学と友達になる!~
「カガク」というと科学であれ化学であれ、拒否反応を示す人は多いのではないでしょうか?
この本の指すカガクは「科学」になりますが、私たちの生活は科学の恩恵なくして過ごせるものではありません。
AIであれ、医療であれ、食に関することだって、便利だと感じることはほとんど科学と関わりがあるのです。
カガクを考える時、まず想像するような理系的専門知識はそれほど必要ないのです。
科学力とは「疑う力」であり、「論理的に考える力」で、おかしいと思ったら「つっこむ力」であると著者は考えます。
文系の科学記者らしい目線で、身近な話題からわかりやすい文章です。
難しく構えずに、まずは試してみませんか。