おススメの愛読書

『凪で溺れる』青羽悠|変わりたい、自分が自分であるために。

「こんな毎日でいいのだろうか?」と、毎日を惰性で送る人。

「何かを変えたい」と、もがく人。

ある時、穏やかで安定している毎日の中に『人生の変化を渇望している自分』に気が付いてしまったら―

これはある1曲に出会ったことで人生が変化してゆく6人の物語ですが、読後に次の変化を受けるのは、あなたかもしれません。

人生の何かを変えたいすべての人へ。

この本は、そんなあなたを後押ししてくれる物語です。

あらすじ

 

中心となるのは“霧野十太”という無名のアーティスト。

彼の作った『凪に溺れる』という曲をめぐり、6人の人生が交錯する青春群像劇です。

物語は霧野十太の14歳から始まりますが、それぞれの章は主人公が違い、霧野十太が中心となることはありません。

あくまでもその章の主人公の心象風景として、霧野十太は語られるのですが、共通しているのは「十太の音楽に衝撃を受けた」ことと「その衝撃によって内面に変化がおきた」こと。

中学時代、高校時代、大学時代、音楽の道に進み始めた頃…それぞれの時間で十太と関わる主人公たちは、夢と理想と現実の間でもがきます。

そして霧野十太が放つ「迷いがなく、澱(よど)みもない、強い意思を貫く」音楽に圧倒されながら、ある者は夢を貫く道を、ある者は現実に立ち返った道を歩むことを決心します。

物語は十太27歳の出来事で幕を下ろしますが、エピローグではそれぞれの登場人物がどのように十太に影響を受け、その後の人生を歩んだのかが語られます。

そこで語られる霧野十太の人生とは…

続きはどうぞ、本文で確かめてみて下さい。読了後、自分でも気づかなかった感情が広がっているかもしれません。

感想

穏やかなのに苦しい

凪(なぎ)とは、「風がやみ穏やかになる状態」のことを言います。だから『凪で溺れる』とは、穏やかなのに苦しいという状態です。

穏やかに見える現実ではあるけれど、本当は夢から逃避している仮初めの安定だからこそ苦しい。

あるいは、夢を追う日々に心の穏やかさを求め、現実から逃避している苦しさもあります。

自分の生き方はこれでいいのかと、誰もが自分を深く見つめる時間。それが、この物語の「凪」ではないでしょうか。

惰性の日々から自分のアイデンティティーを探り、自分が自分であることを追い求める登場人物たちは、まさに模索の日々。

大切なことは繰り返さなきゃ。何度も、何度でも。忘れてしまわないように、負けてしまわないように、ちゃんと貫けるように。

この言葉は十太14歳の決意ですが、その意志の強さが胸を打ちます。

十太が見つめる先は、夢であり、憧れであり、そこには確かな未来がありました。

だからこそ、「十太の生き方」そのものが、皆の憧れになり得たのだと思うのです。

核となるテーマ曲が印象的

 

この本の中心となるのが、題名そのものの『凪に溺れる』という曲です。

実際にメロディーが聴けるわけではありませんが、印象的な歌詞にすっかり魅了されてしまいました。

ギターのアルペジオが、何度も同じフレーズをまるでさざ波のように繰り返し、語るような吐息交じりのボーカルが始まり…

聴いたこともないのに、読者の脳内にはそれぞれの『凪に溺れる』が響いているのではないでしょうか。

実際に音として想像できるような魅力的な描き方には、作者の力量を感じさせます。

『凪に溺れる』歌詞

黒い海は凪ぎ ラジオはノイズ吐き出し
予感はまだまやかし 波打つ繰り返し

遠雷はどこかへ去り 君のワンピースも波
心をたぶらかし 吐き切れない苛立ち

いつまでも途上に立ち 祈りを繰り返し
水平線の先 また出会う二人

聴く者のフィルターでどこまでも想像が広がるような、心に響く歌詞です。

黒い海とは不安、ラジオとは周囲の雑音でしょうか。自分の未来への決心がまだ揺らいでいる様子が波に乗せて伝わります。

遠雷、ワンピースに淡い慕情と現実が投影され、そして最後は未来を見つめる健やかな希望が広がります。

水平線の上、伸びやかに広がる空はどこまでも明るい。そんな風景が見えるような気がします。

作家の感性が光る作品

作者は現在大学2年(なんと京大生)ですが、3年前に「第29回小説すばる新人賞」を、当時高校2年生で史上最年少受賞しました。

デビュー作の瑞々しくまぶしいような印象から、若者の「未来への視点」というテーマは同じに、一段大人になったことを感じられる作品でした。

自分の中の可能性・人生への期待感を『凪に溺れる』という曲にのせて、無気力といわれる若者たちの「内なる渇望」を浮き上がらせた手法がとても鮮やか。

短編のような物語が、最後にはすべて繋がっていたという構成も見事で読みごたえがあります。

「未来に対する先行きの見えない不安」などの描写もうまく、現役年代ならではの感性を感じました。作者はまだまだ発展途上、先が楽しみです。

一緒に読んでほしい本

『星に願いを』青羽悠

『どうしようもなく、生きている』朝井リョウ

『何者』朝井リョウ