司書のしごと

『「本の読み方」で学力は決まる』!子供の読解力を鍛えるには。

読書と読解力

「残念ながら、読解力は読書経験なのであきらめてください」
とある進学塾で講師が言い放ちました。こども中2のことです。私も含め、保護者はボーゼン。もう駄目なの?ホントなの!?と、私を司書と知っている前の席のお母様が鬼の形相で振り返ります。

はて?ホントにそうでしょうか。
だって貸出冊数が多くても成績が残念な生徒を何人も見てきました。
誰より速読で大量の本を読みますが、いつも赤点の常連君。
話題の本も新書も良く読むのに、文章を書くとなるとガタガタな図書委員もいます。

その一方で、読書量と比例するように読解力も文章力もある生徒達もいました。
しかしそういった生徒は、群を抜いた貸出冊数ではありません。ほどほどの量です。時には貸出期間を延長することもあります。聞いてみると、読む速度が遅いからでも読む時間が無いからでもなく、「面白かったからもっとじっくり読んでみたくなって」同じ本を2回3回と読むために借り直すのです。

読書は学力を左右する

読書と成績のショッキングな関係

監修者である川島隆太教授は、脳機能研究の第一人者。そこに教育学の松崎助教、理学・医科学の榊研究員と共に書きあげたのが『「本の読み方」で学力は決まる』(青春出版社)です。
なんと冒頭から「読書習慣がないと、勉強しても平均以下の成績しかとれません!」。平成29年度小5~中3の4万人のデータから読み解く新事実です。

まずは、「平日の平均読書時間」と「4科平均偏差値」を重ね合わせます。読書時間が増えるにつれ、偏差値も伸びてきます。特に読書時間1時間まで急こう配のグラフです。まさに読書と学力が密接に関連しあっている実証。そのあと読書時間1時間から2時間の偏差値の差は緩やかで、数値にしてわずか0.1くらい。

ここで注目すべきは、小学生の方が偏差値が高いことです。同じ読書時間であっても、中学生と比べて偏差値が0.3くらい上です。これは言語機能発達のピークが8-10歳と言われているので、若い年齢層ほど読書の効果が大きいためなのです。

今度は、中学生の偏差値の方をもう少し詳しく調べます。「平日の平均読書時間」と「平日の勉強時間」の重ね合わせです。読書する子は勉強もしているのでしょうか?
当然ながら、勉強時間が長い子ほど成績は良いところからスタートです。調査では勉強時間が「30分未満」「30分から2時間未満」「2時間以上」の3段階ですが、3者とも読書時間に比例して偏差値が上がっているのです。つまり、勉強時間が同じでも読書習慣がある子供の方が成績が良いということになります。しかも、読書時間が長いほど偏差値は上がるのです、勉強時間は変わらないのに!

ちなみに、小学生の場合は勉強2時間やるより、勉強1時間+読書1時間がベストだという統計が出ています。小学生の内はたくさん勉強させるよりも、たくさん読書をして幅広い知識や視野を身につけたり、豊かな感受性を養うほうが学力に結び付くと言えます。
中学生の場合は、勉強2時間以上かつ睡眠6-8時間かつ読書1時間未満が最適となりました。生活も忙しくなるので、読書時間は無理に作るというよりも、スキマ時間をみつけてコツコツ続けるほうが賢いやり方と言えそうです。

長時間の読書は「毒書」になる

さらにこのグラフ、面白いことがわかります。
読書時間と勉強時間、両方ともずっと右肩上がりで相乗効果があるのかと思えば、ある地点から数値は下がり始めます。

ある地点とは「読書時間1~2時間」。このポイントを超えると、いずれのグラフもガタっと偏差値が下がるのです。それは、勉強時間が何分でも、何歳でも同じです。勉強時間が長ければ長いほど顕著でした。2時間以上勉強しても、読書時間が長くなれば成績は落ち始めるのです。むしろ結果は、30分~1時間未満の勉強時間の子どもより悪くなっています。長い時間勉強しているのにもかかわらず!

これは、誰にでも1日は平等に24時間であるということが理由です。どれだけ勉強しようが読書しようが、24時間内という縛りは解けません。学校に滞在する時間は皆同じなので、長時間勉強している子どもが長時間の読書をするには睡眠時間を削っている可能性が考えられます。読書量よりも、睡眠不足のほうが成績に悪い影響を与えてしまうというわけです。

脳と睡眠の意外な関係

次の調査は、「平日の睡眠時間」と「偏差値」の重ね合わせです。小学生と中学生に分けて観察します。いずれの場合も睡眠5時間未満の子どもの成績が一番下です。睡眠時間が増えるにつれ成績も上がり、両者とも9時間を境に今度は成績が下がり始めます。

睡眠不足が心身、脳の発達に悪い影響を与え、勉強や仕事がはかどらないと感じた経験があると思いますので、5時間未満睡眠子どもの低い成績は納得出来ると思います。
では睡眠時間が長いとなぜ成績がよくなるのでしょうか?

これは睡眠時(正確には浅い眠りのレム睡眠)に脳が日中の記憶を整理して定着させているメカニズムだと言われています。レム睡眠は90分ごとにしか訪れないため、睡眠時間が短いとそれだけ記憶が定着するチャンスが少なくなってしまいます。加えて、睡眠中には成長ホルモンも分泌され、細胞レベルで新陳代謝が促進されるのです。ですから、学習と睡眠がセットになってはじめて成績が上がると考えなけれなりません。

ちなみに9時間以上の睡眠をとった子どもも成績が落ち込みます。これは長時間読書と同じ原理であると考えられます。つまり、長時間の睡眠時間を確保するためには他の何かを削らなければならないということです。それは勉強時間なのか読書時間なのか。いずれにしろ、学習の記憶が無ければ定着するものもありません。

どうして読書が学力(偏差値)と結びつくの?

なんと読書は脳のトレーニングだった!

いよいよ本題です!どうして読書することが、学力と結びつくのでしょう。
読書している時、目を使って文字を見て、意味のある文字列を認識します。さらに単語の羅列から文章の意味を理解します。そしてその文章の内容を記憶しながら次の文章に読み進めます。読むたびに内容の記憶を上書きします。これらの活動をする時、使われている脳の場所はそれぞれ違うのです。

私達は読書をするときに、「文字を見る→後頭葉、ウェルニッケ野」「単語を見る→後頭葉、ブローカ野」「文章を読む→左ブローカ野、左前頭前野背側部」を使っているそうです。
つまり、読書をするだけで無意識に脳の各ポジションが使われ鍛えられます。
いわば読書は、脳の各機能のトレーニングになるのです。

「読み方の差」が「読書効果の差」になる

では、この記事の冒頭に紹介しましたが、どうして「読書量と成績が比例しない子ども」がいるのでしょうか?大量の本を読んでいるので、だいぶ脳はトレーニングされているはずです。

実はこれは「本の読み方の差」であるようなのです。
まずは「まとめ読みと細切れ読み」。例えば通勤通学などのスキマ時間を使って15分などの細切れで読む場合と休日に一気に読み切る場合です。効果的なのは細切れ読みでした。こまめな休息を入れながらの読書の方が記憶の定着が良いようです。

「黙読と音読」はどうでしょう。音読は黙読よりも広範囲の脳領域が活性化します。脳トレとしての効果は音読は非常に有効です。

次は黙読で速く読む「速読」です。文章を速く読もうとすると必ず理解度が下がってしまうため有効とは言えません。どうしても文章の要点だけをかいつまんで読む「飛ばし読み」になりがちです。しかしこの時、視空間認知に関する脳領域の活動は高まっています。速読には文章を写真のようにとらえ、頭の中で言語化しないという基本技術があるので、言語能力の向上には効果が小さいのです。

たくさんの冊数の読書をするときには、まとまった時間をとって速読しながらの読書になると言えます。つまり前述の「多読赤点くん」は、せっかく読書しているにもかかわらず飛ばし読みになってしまい、言語能力のトレーニングが出来ていない状態だといえます。だからなかなか成績に結び付かないのですね。
かわりに、視覚や空間認知の能力は向上する効果は期待できそうなのですが…。

読み方を意識すれば、読解力と脳神経回路は鍛えられる!

読書で何が鍛えられるのか

読書する時に色々な脳の領域が使われ、また効果的に読むには、休憩を取りながら細切れの時間をつかい、飛ばし読みにならぬよう理解しながら読むのが良いことがわかりました。しかし、具体的には何が鍛えられるのでしょうか?

「物語」の場合は、読みながら主人公になりきることで実際に自分が体験しなくても、脳は体験したと錯覚してしまいます。登場人物に共感したり、意図や気持ちを推し量ったりすることで心の理論が活性化して、他人の気持ちを理解する社会性や共感力を養うことが出来ます。

「ファンタジー」の場合は、明らかに現実離れした場面を理解しようと脳がフル回転します。思いがけない設定や展開に感情が強く湧き上がったり、独特な世界観を理解しようと注意深く読み込んだり、読み続けるために独特な読解のプロセスを継続させようとしたり、普段とは違った脳活動が現れます。

推理小説」の場合は、じっくり考えて答えを導き出す「探索解決」と、一瞬でひらめいて答えを出す「洞察解決」の2種類の脳の活動があります。解析の結果、じっくり考えている時には言語プロセスにも関わる左脳領域が、ひらめきの時には右脳左脳両方が一気に活性化することがわかりました。どちらにせよ、推理してトリックや犯人が分かった時には、言語処理の領域が活性化します。

つまり!の結論

読書をすると言語活動をつかさどる脳領域が活性化されるのです。
言語の中枢はブローカ野とウェルニッケ野です。
この2箇所と前頭前野は、読書を沢山するほどに神経線維ネットワークで強く結ばれるのです、そして結束が強ければ強いほど情報の伝達が早く、言語的な能力は高いということになります。

専門的すぎるので簡単にまとめると
読書をすると、活発に働く部分同士がネットワークで結ばれる。
このネットワークは読書するほど強く結ばれていき、結果的に読解力が高まる。
ということなのです。
なるほど!

せっかく本を読むなら、時間をかけたとしても内容を理解しながら読解力をつけたいですね。面白いからと言って、スピードをあげて筋を追っての飛ばし読みでは勿体ない事をしているのだと改めて理解しました。
とは言え、やはりその気持ちもわかります。そのスピード感こそ読書の醍醐味!という時もありますから。

ですから、結論としては「読み方を意識した使い分け」をお勧めしたいと思います。
基本は、じっくり考え、文章を咀嚼しながら読書する。
でもエンター性の強い時は、その感覚を存分に楽しむのもアリ。
同じジャンルにこだわらず、意識的に多方面の読書をして脳を鍛える!
勿論、睡眠と勉強も忘れずに。

○勉強時間にかかわらず読書をたくさんする子どもほど成績が良い

○どんなに勉強しても読書習慣が無いと平均以下の成績になる

○読書することで脳の機能が鍛えられて、勉強時の記憶力や読解力に役立つ

○しかし睡眠時間を確保しないと記憶の定着度は低い

○「勉強」+「読書」+「睡眠」の組み合わせで賢く成績をあげよう