話題の本

『うつ時々、躁』患者本人の「心」と「身体」の悩みを教えてくれる

最近、「思春期型うつ病」の症名をよく聞くようになりました。

気持ちの繊細な高校生や中学生にみられる症状で、私も今まで何人かの生徒をみてきました。

大人になる過程で不安定な気持ちがどんどん膨らみ、大きな悩みをきっかけに心の病にかかる…そんなプロセスがほとんどです。

うつ病は大人の病気と思われがちですが、中学生以降は大人と変わらない頻度でうつ症状が起きるという報告もあります。

では実際に、うつ病とはどんな病気なのでしょうか?それを教えてくれる本がありました。

うつ状態でも読める薄さと内容のブックレット

『うつ時々、躁』を手に取った時は、まさに「待ってました!」という気持ちでした!

その時ちょうど、うつ傾向にある生徒から相談を本人から度々受けるようになり、うつに関する本はないかと聞かれていた最中だったのです。

でもいずれの本も専門書だったり、厚くて語句も難しかったりで、なかなか勧められる本がなかったのです。

特にうつ状態になっている時には、どんなに読書好きな人でも思考力が低下するらしく、集中力がいるような本は読むことが出来ないといいます。

子供向けくらいの語句で、出来ればイラストがふんだんに入っていて、あまり深刻にならずに読めるような絵本があったらいいのに…と常々思っていたのです。

そんな時に発行されたのが、この『うつ時々、躁』というブックレット。

イラストこそ入っていませんでしたが、表紙から受けるやさしい印象、80ページの薄さ、中を開くとわかりやすい言葉でつづられた文章

きっとこれなら、つらい症状でも読むことが出来るに違いないと嬉しくなりました。

著者・海空るりさんのプロフィールが大事

この本の一番素晴らしい点は、著者自身が患者であるということではないでしょうか。

著者の空海るりさんは、ある日突然うつと診断され、7年後に双極性障害とわかります。

それまで大学院で学び、修士課程を修了、大学で教員を務め、そして結婚、と絵に描いたような順風満帆な人生を歩んできた女性でした。

順風満帆ではあったけれど、それはそれは多忙な日々。そしてある日を境に、忙しさを極めた身体が悲鳴をあげ、心が潰れました

こころの病とは全く無縁そうなキャリアのある女性像。頭脳優秀で努力家で行動力もあり…そんな彼女が直面する「うつ」との闘いが、本書からとてもリアルに伝わってきます。

大学で熱弁をふるい、日本全国を講演依頼で飛び回って新聞や雑誌に執筆していたようなバリバリのキャリアウーマンでも「うつ」には屈せざるを得ないのです

その事実が、私たちにより真実味をもって迫ります。

患者の目線でうつを教えてくれる

患者本人を理解する手助けとして

初めての診察、薬を飲むということ、医療者との関係、同病患者との交流…何よりも自分の症状の「付き合い方」と「向き合い方」が、真正面から語られています。

この本は単なる診療の指示書でも、Q&Aでもありません。

もちろんそのように読むことも出来ますが、この本の一番の素晴らしさは患者さん本人の心の内が赤裸々に語られているところにあります。

体がだるく、言うことを聞かない。

やる気という気力全部を奪われ、何日も床にふせるしかない。

そんな中でも、家族や周囲の協力を経て少しづつ立ち上がろうとします。

自分自身を過信したり、薬の飲み方を誤ったり、何度も失敗しながらも一歩一歩進み続ける著者ありのままの姿が、「うつ」の真実を教えてくれます。

実用書としての面を活用する

筆者による『患者の心得』は必読です!

主治医見つけることから、さまざまな療法の受け方、周囲との協力体制のことなど11項目からのアプローチを提案しています。

なかでも福祉サービスの活用の項は知らずにいたらもったいない。日本の行政サービスは自分から動かないと受けられない制度なので、情報の有無がカギになります。こういうことこそ積極的にシェアしなければならないですね。私も協力していこうと思います!

うつを理解し、患者に寄り添う

うつを患っていると言っても人それぞれ型も症状も違う為、この本の症例は一つに過ぎないと本書のあとがきにあります。

しかしながら一つの症例を取っ掛かりとして「うつ」を理解していくということは、とても有効だと思うのです。

患者本人も自分に起こる症状は、すべて初めての体験で経験が無いために、感情的にもどのように対処すればよいのか戸惑うことでしょう。

また家族や友人など周囲の人々も、うつ患者と接することが初めてであれば、向き合い方がわからないのは当然です。

まずは本人がどのような症状に困り、どんな対処法があるのか。どんな手助けがあり、どんな手助けが必要なのか。

内側と外側、精神的と肉体的・あるいは本人と周囲の両面から、寛解に向けて患者に寄り添うために、まずは病症を理解することが手始めなのではないでしょうか。