一見平和に思える日本での暮らしですが、世界のどこかで今も内戦や紛争が起こっています。隣の北朝鮮では弾道ミサイルの実験があり、その度にハラハラしてニュースを見ている私たち。
戦争は遠い時存在になったと思っていますが、実は今隣り合わせの危険をはらんでいるのかもしれません。
そんな時だからこそ、もう一度しっかりと「平和」の意味をかみしめたい。
今日は浜田桂子さんの絵本『へいわってどんなこと?』を紹介したいと思います。
遅咲きの絵本作家・浜田桂子さん
「平和のため」が活動スタイル
講演会やトークショーで精力的に全国を飛び回る、絵本作家・浜田桂子さん。
その活躍は日本だけに留まらず、絵本を抱えて中国・韓国・北朝鮮・メキシコ・キューバにも訪問の広がりを見せています。
その想いは、ひとえに「平和のために」。
各地で絵本の読み聞かせを中心に、子供たちと平和を考え、絵を描くワークショップをすることで「命・平和・権利を絵本で伝えたい」と活動されています。
華麗なる履歴
浜田桂子さんは1947年生まれの72歳、戦後のお生まれです。
桑沢デザイン研究所を卒業後、田中一光デザイン室勤務を経て、37歳で遅咲きの絵本作家デビューをされています。
桑沢デザイン研究所といえば美術系専門学校の中でも入学が難しいことで有名です。広告などの視覚デザインからファッション、工業デザイン、インテリア建築設計と幅広いコースがあり、美大と競うハイレベルの講義が受けられるだけあって、卒業生もそうそうたるメンバーです。
また卒業後は田中一光デザイン室に勤務されています。田中一光といえば「無印良品アートディレクター」として有名な方。20世紀の日本のグラフィック界を代表するデザイナーとして、日本のモノづくりに多大な影響を与えた人物です。
そんな素晴らしい環境で学び、デザイン界の第一線の現場経験のある浜田さんですが、結婚出産を経た37歳の時に念願の絵本作家デビューを果たします。
「平和絵本」に込めた思いとは?
2010-2018年にかけて、日本・中国・韓国の絵本作家が手をつなぎ11冊のシリーズ絵本を刊行しました。
それは国の違いを乗り越えて平和への想いをテーマにした、「日中韓平和絵本」。
かつて侵略があり、お互いに加害者であり被害者である国同士の絵本作家。それぞれにいろんな思惑があっただろうことは固くありません。製作途中には互いの国の戦争観から、厳しい批判も飛び交ったと言います。
それでもこのプロジェクトが続けることが出来たのは、メンバーが正面から過去の歴史に向き合って「明日の平和を作る」思いが重なっていたからではないでしょうか。
代表作『へいわってどんなこと?』
この本は全ページが子供の目線で「平和とはこういうことだ」と箇条書きの文章で作られています。
すべてひらがなで文章が作られ、幼さと一生懸命さがつながって心にせまってくるのですが、当初浜田さんは「ひこうきがとんでこない」「ばくだんがおちてこない」など「~しない」という受け身の表現で考えていたそうです。
しかし他国の作家に「アジアにおいて日本は被害者ではなく加害者である」と指摘されて衝撃を受けます。知らず知らずに被害者意識が働いている自分の戦争観は、日本独特のものだと気が付いたのです。
もしかしたら自分が加害者になりうるかもしれないという意識は、文章の語り手である子供に反映されました。
「僕はばくだんをおとさない!」「わたしは嫌なことは嫌だと言うんだ!」
そんな意思をもった子供の言葉は、がぜん説得力をもって光り始めたのです。
戦争だけじゃない「こころのへいわ」も
実は、私はこの本を読んだとき「戦争は国と国の争いだけではない」と感じました。「人と人との戦争」=「いじめ」も同じことなんじゃないかな?と思ったのです。
ひどい言葉や行動で傷つけるのは、まるで飛行機で爆弾を落とすことのよう。友達や仲間から孤立するのは、居場所がどんどん少なくなっていることと同じです。
そんなことが起きたら、ごはんだって食べられない、朝までぐっすり寝られることなんて出来なくなってしまう。
好きな人と一緒にさえいられなくなってしまう。
だから私たちは意思を持って、戦争なんかしないぞ!戦争は起こしてはいけないことだ!と叫ばなくてはならないと思いました。
周りの空気に同調することなく、嫌なものは嫌なんだ、悪いことは悪いんだと叫ぶ勇気があれば、きっと隣に同じ思いの仲間が集まってくるのではないでしょうか。
まるで、今回国を越えて手をつなぎ合った12人の作家たちのように!
たくさんの含みを持ったこの本は、もっと違う角度からも読むことが出来る本だと思います。司書の間で『へいわってどんなこと?』はすでに小学校の読み聞かせの定番ですが、高校や大学のブックトーク・読書会にもぴったりだと思います。おすすめの一冊に推薦です。
(参考記事;マガジン9「この人に聞きたい」)