2020年度は、間違いなく学校図書館の転換期になるであろうと確信しています。
それというのもコロナ対策の長期休校で、改めて学校図書館の存在意義がクローズアップされたからです。
司書としていくつかの学校を経験して確信したことは、その学校の『図書館への関心度=教育への関心度』である、ということ。
昨今の気候事情から来る自然災害を考えても、突発的な休校はこれからも起こり得るであろうし、加えて館内消毒や蔵書点検などの機会も含めても、学校図書館を閉館する機会は増えるだろうと予測しています。
そんなときに学校図書館が電子化していて、自宅でも出先でも来館せずに本を読むことが出来たらどんなにいいでしょうか!
ここではwithコロナ時代を想定した学校図書館のITC、すなわち電子書籍化について考えていきたいと思います。
電子書籍化した学校図書館はどれくらい?
GIGAスクール構想、ITC教育。
つまり、インターネットを活用したPCを使える教育を子供全員に!という流れのハズなんですが、なぜか日本の学校図書館の電子化は一向に広がりを見せていません。
OverDriveJapanによると、アメリカの公共図書館における電子書籍サービスの導入率は90%以上なのに対し、日本における導入率はわずか5%。
公共図書館でさえそうなのですから、学校図書館の普及率は…とても期待できるものではありません。
日本での図書における「紙至上主義」は、やはりゆるぎないところです。
もちろん記録素材としての「紙」は、他に類を見ないほどの強度と耐久性があり(参照:図書館に「紙」の意義はあるか?)とても優秀ですが、時代は進化し、人々の生活様式も変わってきます。
大概の人は新しいものに拒絶反応してしまう傾向にありますが、日本における「図書館の電子書籍化」も同じことが起こっています。
人間の脳の仕組みとして新しいことや変化のギャップには身構える傾向にあり、見極めて受け入れるまでには経過観察の時間が必要だと言われています。
現在、世界各国では電子書籍化に対しての見極めの時期が過ぎて、徐々に受け入れの姿勢が広がりをみせています。
その結果が「アメリカの公共図書館における電子書籍サービスの導入率90%以上」なのではないでしょうか。
コロナ禍を受け、日本でもデジタル教科書(「タブレット)を義務教育課程で取り入れるなど、電子書籍へのニーズと関心が高まっています。
だから今こそ、学校図書館の電子書籍化の導入を検討する絶好のチャンスなのです!
学校図書館の電子書籍システムのメリット
休校中の学校教育で一気に『オンライン学習』の加速が進みました。
政府が5ヶ年見積もりで立てた計画は、この半年で一気に完遂してしまいました。
全世界でリモート化が進み、学校もまた新しい生活様式へと変化しようとしています。
オンライン学習と同じ速度で子供たちの学びを維持するためには、学校図書館の在り方もまた見直す必要があります。
学校図書館のオンライン化は、電子書籍化です。
では、学校図書館の電子書籍システム化にはどのようなメリットがあるでしょうか?
部活や委員会、その他個人的な理由でなかなか学校図書館に足を運ぶことが出来ない児童、生徒にとってはメリットがとても大きい!
また管理している学校図書館としても、貸し出しはもちろん、返却の手間がなく(期間が過ぎたら自動で返却されるシステム)督促する必要さえありません。
そして一番のメリットは、書籍が無くなったり、破損することがないことでしょうか。
電子化の良さで、読みたい本の題名や著者の名前などを知っていれば、検索ですぐに探すことが出来るのもうれしい限りです。
導入のハードルとなるものは何か?
学校図書館の電子書籍化が円滑に導入できる環境を作ることが出来るか、それが一番の課題ですが、妨げている要因は何でしょうか?
機器の故障やトラブルに対処できるかは、担当教職員が最初にある程度の知識を持つことと、システム企業との連携で乗り切れると思います。
そして、ITC教育や電子書籍についての教員の知識不足・スキル不足については、企業を通じて事前に研修を行うなどで不安を取り除くことが可能です。
児童生徒については、直接学校司書が中心となって指導することで、正しい利用方法を広めるのがよいでしょう。
また司書によるレファレンスについては、チャットやメールでの対応が妥当ではないかと思います。
電子化することになっても、読書への働きかけや、選書やメンテナンスなど司書による仕事は無くなることはありません。(司書補の手作業の仕事は、電子化により無くなると思います。)
導入資金の問題が一番の難題ですが…実際に見積もりを取ることによって予算が具体的になりますので、まずは教員の図書部会で具体的案件として議題にしてみてはいかがでしょうか。
実際に導入されている学校用電子書籍システム3社
電子書籍システム「School e-Library」
小中高向けの定額制の電子図書館サービス「School e-Library」。
学校に教科書を供給している有志企業が集まって作った、ちょっとイマドキなサブスクリプション制の電子書籍システムです。
契約サービスは対象が教育委員会・小中高のみとなり、個人契約はできません。
出版社8社の優良な書籍(原作者の了解済み)1000冊を自由に読むことが出来ます。ダウンロードは不可です。
気になる価格は、41ライセンス(41人)で年間28.800円(税込)。
追加契約は5ライセンスで3.750円、10ライセンスで7.500円(税込)。
内容は「青い鳥文庫」などの日本・海外の童話から『野ブタ。をプロデュース』『真夜中のディズニーで考えた働く幸せ』など幅広くそろっています。
ちなみに無料体験も行っているので、事前調査として試してみることが可能です。
クラウド型電子図書館「LibrariE(ライブラリエ)」
㈱KADOKAWA、㈱紀伊國屋書店、㈱講談社を株主として設立された㈱日本電子図書館サービスが提供する「LibraruE」。
2020年7月13日現在で218館が導入済みの、国内では最大実績のあるシステム企業です。
ネット環境基盤があればすぐできる導入しやすさと、利用者への細やかなサポートが選ばれる要因ではないでしょうか。
図書館担当者に嬉しい「選書オーダリングシステム」を搭載。
「選書オーダリングシステム」で電子書籍の選書や購入から、貸出し予算管理や利用統計まで出来てしまう!
導入図書館例)大学図書館82館 学校図書館68館
新潟青陵大学、新潟工科大学、茨城キリスト教大学、文教大学 他
仙台高専、茨城キリスト教学園中学校・高等学校、日体大柏高校、二松學舍大学附属柏中学校・高等学校 他
電子図書館サービス「Over Drive」
アメリカを中心に世界の図書館で導入されているOver Drive社のシステムを、日本で展開しているのがOverDriveJapan。
国内の電子図書館サービスの提供・海外で出版されている多言語の本を日本語で配信・国内で出版されている本の配信が主な事業です。
上記の4つがパッケージとしてセットされているため、管理者側にもとても使いやすくなっています。
導入図書館例)
工学院大学付属高校・中学、近畿大学中央図書館、清泉インターナショナル、福井大学附属図書館 他
番外・新聞記事データベース「朝日けんさくくん」
「朝日けんさくくん」は小中高向けの、朝日新聞の記事をインターネットを使って自由に検索閲覧できるサービスです。
レポート作成や、授業での知らべ学習、アクティブラーニングでの資料としてクラス50人まで一度に一緒に使えるなど学校に特化した機能が満載です。
クラスタイプ | 月額6000円 同時50アクセス |
---|---|
スクールタイプ | 月額10000円 同時50アクセス +聞蔵Ⅱビジュアル2アクセス |
番外・総合辞書「ジャパンナレッジ」
「ジャパンナレッジ」はオンライン辞書・事典サイトのジャパンナレッジを学校・研究機関等で利用するためのサービスです。
- 法人契約の入会費 15,000円(登録、初期設定費用。初回契約時のみ必要)
- 年額料金 1アクセス250,800円/2アクセス396,000円
- 約1500冊以上(総額600万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題
辞書や辞典などは最新版を常備が必須ですが、各1冊が高額なこともあり、学校単体で多くの種類の辞書・辞典を購入することはとても難しいのが現実です。
ジャパンナレッジの利用では、常に最新の情報が手に入り、端末検索できるので求める情報にたどり着く確率が高い!
図書館常設のPC(誰でも使える端末)に入れておくと、授業だけでなく、自習の生徒にも大いに役立ちます。
一か月のお試し導入アリです。
これからの時代の学校図書館の目指す姿
時代の経過とともに、人々の本との関わり方も変化してきています。
数年先の将来のことを考えると、児童期のみならず、高校生に至っては最後の生涯教育の機会としても学校図書館電子化の影響は大きいのではないでしょうか。
“紙の上の利用シーンを、電子上でそのまま再現する”図書館
―OverDriveJapan
これは、OverDriveJapanのキャッチコピーなのですが、まさに電子図書化とはかくあるべき!秀逸なコピーです。
学校図書館がオンラインで授業も家庭学習も支援出来るようになる未来の姿にも、やはり図書館本来の「人と本をつなぐ仕事」は不可欠であることに変わりはありません。
架け橋を一つでも多く作ることが、これからの司書の役割になるのではないかと思います。
AIにはできないサービス、発想と仕掛けを、たくさん作っていきたいです!
最後になりますが、ここでは児童・生徒の全員が読書に使える媒体(スマホ・タブレット・PCなど)を持っていること(ITCの基盤があること)が前提での記事になります。
”全校生徒が同じ条件下で使えること”は電子書籍化以前の問題ですので、教育格差を作らないためにも、学校司書も生徒のICT環境確認をすることが必要です。その上で電子化革新することをお薦めします。